☆彡思い出の回廊Ⅲ — 溶けかけの「最優先事案」
〔前回までのあらすじ〕
生徒会長になったレイから副会長に誘われたハクショウは、「彼女になる自信はない」と距離を置こうとする。しかしレイは、彼女が自分の隣にいる口実を作るため、あえて厄介なトラブルを抱え込んでみせた。それは「恋人」という重圧を恐れる彼女が、一番安心して傍にいられるようにという彼なりの深い優しさだった。その不器用な愛情に気づき、本当は誰よりも「一緒にいたい」と願っていた自分の本心を受け入れるハクショウ。「高くつくから後悔しないでね」と微笑み返し、言葉以上の確かな絆で結ばれた二人の新しい日常が始まる。
学校からの長い坂道を下りきると、視界が一気に開け、冷えはじめた潮の香りが秋の気配を知らせてくれた。海沿いを這うように伸びる国道のすぐ脇に、その青いコンビニはポツンと建っている。
煌々と無機質な白い光を放つ店内のレジ前で、レイは私が容赦なくカウンターに置いたプレミアムアイスを見下ろし、わざとらしくため息をついた。
「……本当に一番高いの持ってきたな」
「だって『なんでも好きなもの』って言ったのはレイでしょ。覚悟してるって言ったし」
「言ったけどさ。だから、遠慮しないで俺に接してくれる君に感謝しているんだよ」
彼はおどけたように肩をすくめると、スマホをレジの端末にかざし、軽快な電子音が鳴るのと同時に手際よく決済を済ませてくれた。不意打ちのように甘い言葉を落とす彼に、またしても胸を鳴らされながら、私たちは店員から受け取ったアイスを片手に自動ドアを抜けた。
「おや。こんなところで会長と副会長がずいぶんと親密なご様子で。これは明日の良い見出しになりそうですね」
外の薄闇に出た瞬間、聞き慣れたねっとりとした声に呼び止められた。 次期新聞局長に内定している西村だ。塚原の手下である彼は、学園内のゴシップや派閥の動向に誰よりも鼻が利く。揶揄するような西村の視線に、私は心臓が嫌な音を立てて跳ねるのを必死に隠した。ここで塚原派に余計な口実を与えるわけにはいかない。
「……変な勘繰りはやめてよね、西村くん。私たちはあくまで、生徒会の今後の打ち合わせを——」
努めて冷静な声を取り繕い反論しようとした私の言葉を、レイがふっと小さく息を吐いて遮った。
「レディーの前でいきなり失礼じゃないか」
レイの静かな、けれど有無を言わさない響きに、西村は一瞬怯んだように見えたが、すぐにまた薄ら笑いを浮かべた。
「これは失礼。ですが、生徒会の活動に、放課後二人で仲良くアイスを買うというのはなかったはずですがね?」
ねっとりと絡みつくような西村の追及。理詰めで痛いところを突かれ、私は息を呑んだが、レイは微塵も動じなかった。
「いや。君の言うように、生徒会の打ち合わせだけじゃない」
レイのあっさりとした肯定に、西村の口角が勝ち誇ったように上がる。しかし、レイはそこで言葉を切らず、西村の目を真っ直ぐに見据えて言い放った。
「でもそれは、君が考えているようなラブロマンスなんかよりももっとずっと大事な話をしていたんだよ」
「……は?」
予想外の言葉に、西村の目が驚きに丸くなる。私も思わず隣のレイを直視してしまった。
「もっとずっと大事な話……ですか?」
西村がいぶかしげに眉をひそめる。彼のような人間に、先ほどの教室でのやり取りのような、恋愛すら超えた繋がりなど理解できるはずもない。戸惑う西村を見て、レイは少しだけ意地悪く、けれど理路整然と告げた。
「そもそも男女が一緒にいるだけで色めき立つのはどうしてだろうね。本当はもっと大切なことがあるだろう。そう。たとえば君の場合であれば、『来週の代議委員会で、無事に新聞局の設立が承認されるかどうか』というあたりになるのかな。俺たちにとっても、それと同等か、それ以上に最優先の事案について話し合っていたところだよ」
「なっ……」
自分自身の最大の関心事であり、政治的な野心を正確に突かれた西村は、言葉に詰まり絶句した。 そこへ、私はレイの言葉に重ねるようにして西村に告げた。
「西村くん。そんなに心配しなくても、新聞局設立の発議については、局長人事も含めて私から丁寧に説明する予定だから、そんなに反対はでないと思うよ。」
その言葉に、西村は完全に虚を突かれたように目を瞬かせた。これは裏を返せば、私たちのさじ加減次第では、新聞局設立の件もどう傾くかわからないという、暗黙の牽制だ。恋愛スキャンダルを暴こうとしたはずが、私たちの鮮やかな連携によって完全にペースを乱され、煙に巻かれてしまったのだ。言葉を介さずに繋がる意識の底——私たちにしか分からない不思議な感覚を通じて、レイがこの状況を楽しんでいるのが伝わってくる。
「おっと、いけない。せっかくの『最優先事案』が溶けそうだから、俺たちはこれで。じゃあな、次期局長殿」
レイは呆然と立ち尽くす西村に背を向けると、私の手首を軽く掴んだ。
「ほら、走るぞ!」
「えっ、ちょっと、レイ!」
戸惑う間もなく引っ張られ、私たちは宵闇の迫る海沿いの国道を駆け出した。 背後で西村が何か言っていた気もするけれど、波の音と二人の足音にかき消されてもう聞こえない。繋がれた手首から伝わる彼の熱と、潮風を切って走る心地よさの中で。私は少し溶けかけたアイスを握りしめながら、不思議なくらい心がじんわりと温かくなっていくのを感じていた。

#すいません。絵心がないため、画像はAIを用いて生成しているのですが、西村が怪しすぎましたね。これでも苦心作ではあります(汗)。
☆今日は、ちょうどおやつの時間の頃、あなたからの強烈な愛が胸を貫きました。息が苦しいくらいだけど、こうゆうときはただただ幸せです。同じように私の愛も届くといいなあ。元気にしていますか?